朝出勤して間もなく電話がかかる。出ると「今すぐ来て〜」と言う。「どうしたん?」と聞くと、「とにかく来てん」と繰り返すばかり。急な用事かと思い急いで車を走らせる。自宅について戸を開けると、ニコニコして出てきた。(なんだ、元気じゃないか)
「どうしたん」と尋ねると「まあ上がらんかい」と言うので仕方なく上がって話を聞くことにする。
「どうしたん?」とまた聞くと、ぼそぼそ話し始める。話の内容は今の家を建てるとき、亡くなれたご主人が毎日毎日大工の仕事を監視し、いろいろ注文をつけてくれたおかげで、雨漏り一つしないしっかりした家ができたんだ、というような昔話であった。
「ところで、用事は何だったん?」(すこしイライラ)と聞くと、ニタッと微笑み「ちょっと待って」と言って奥に引っ込んでしまう。(さらにイライラ)しばらくしてジュースの缶を持って出てきて「まあこれでも飲まんかい」と私に差し出す。(これって冷えてないし〜) 念のため賞味期限を確かめる。(期限切れじゃし〜) しばらく飲まずにいたら「飲まんかねぇ はよはよ」とせきたてられ仕方なく飲む。(なまぬる〜い)
結局特に急ぎの用事もなく、1時間ほど昔話を聞いただけに終わってしまった。(わしはそんな暇じゃない〜!)だが帰る間際にしんみりこう言った。
「ひとりぼっちは寂しいわ・・・」
さっきまでの少し腹立たしい気持ちも、この一言ですっかり変わってしまった。そうかこれも仕事か・・・と思いつつ、振り返ると大粒の涙が流れていた。 |